石見銀山と鞆

 11月4日、我が福山市世界遺産の評価・調査を担当する国際記念物遺跡会議(イコモス)の会長さんがやって来た。理由はいわずと知れた、「埋め立て架橋」でゆれる鞆の浦の視察だ。視察を終えたグスタボ・アローズ会長は「海と陸側の町並みなど、歴史的に深みのある多彩な要素が一体として存在していることに敬意を表し、高い価値を認めたい」と改めて評価、県市が進める埋立・架橋計画について「実現すれば、破壊的な結果をもたらして文化遺産としての価値が失われる」と訴えた。同会長は鞆の浦を「過去と現在が同居する街」とも評した。
 鞆は「世界遺産」に値する町なのか。或いは「過去と現在」はどのようにすれば「同居」できるのか。世界遺産の先輩、石見銀山にその手がかりを探ってみた。
 石見銀山といえば、かつては副産物の「猫いらず(ネズミ駆除薬)」で有名、福山人にとっては市内を通過する旧街道「石州街道」の出発点として古くから親しまれている。
 世界遺産に指定された「石見銀山」は、島根県大田市大森町にある。福山からだと、山陽自動車道から広島JCTで中国道に入り、千代田JCTでさらに浜田自動車道に入る。大朝ICで下り、国道261号線を1時間ほど走ると到着する。国道261線の沿道には至るところに案内標識があるので始めての方でも道に迷うことはない。
 今回の訪問は私にとって4回目であったが、驚くことが多々あった。先ず、駐車場が銀山や大森の町から離れたところに設けられていたことだ。以前訪れた時には大森代官所前の駐車場から一番の見どころ「竜源寺間歩」まで何処でも車で行けたし、駐車出来た。今回はそうは行かなかった。良かったのは、途中の道の駅「瑞穂」で駐車場情報を教えてくれて、事前に様子を知ることが出来たことだ。
 世界遺産から観光客の車を「排除」するこの「大森方式」は、成功するか失敗するかで注目を集めたが、どうやら「成功」を収めつつあるようだ。私も二キロ近く離れた駐車場から大森の町まで乗り合いバスに揺られて行った。乗ったのは5分ほど、大して不都合は感じなかった。今、鞆の町は「ポニョ」と裁判効果で観光客の車で混雑していると聞く。この大森方式を、我が鞆の浦にも是非導入すべきだ。
 次に驚いたのは観光客の多さだ。私が訪ねたのは土曜日だったが、駐車場は満車、バスも満員だった。前3回の訪問は世界遺産指定前で街は閑散としていた、こう言うのを「世界遺産効果」というのだろう。
 石見銀山を訪ねた率直な感想は、「見所」は銀山の「間歩」しかないということだ。大森の街並は鞆と比べたら問題にならない。「今を生きる」鞆の町の方が数段上なのは言うまでもない。