健保組合解散、改めて国民的な議論が必要だ

健保組合解散、改めて国民的な議論が必要だ 恐れていたことが、とうとう現実になったといえる。
 物流大手「セイノーホールディングス」傘下31社の従業員や家族ら約5万7千人が加入する健康保険組合が、8月1日付で解散していたことが分かった。
 今年4月に実施された高齢者医療制度の改革で、制度を支えるための負担金が大幅に増え、継続が難しくなったためだ。
 解散後、従業員らは国が運営する政府管掌健康保険に移ったが、母体企業の倒産以外の理由で大規模な健保組合が解散するのは極めて珍しい。
 が、その背景をみれば当然の結果のようにも思える。今春の改革では、現役世代が加入する健保組合などが前期高齢者(65〜74歳)の医療費に関する負担金を出す仕組みが新たに導入された。高齢者の加入が多い国民健康保険を支えるため「財政調整」を行うというのがその名目だ。おかげで、全国に千五百ある健保組合は軒並み負担金が増え、今年度は9割が赤字になる見通しだという。
 今回解散したセイノーの組合では、高齢者医療関連の負担金が前年度の約36億円から約58億円へと6割以上増える勘定だった。健保を維持した場合、約23億円の赤字になる。負担金の増加分を補うには保険料率を月収の8・1%から、10%以上に引き上げることが必要だったが、政管健保なら保険料率は8・2%で済む。ならば、組合を解散して移った方が、従業員にとっても会社にとっても得策と判断したようだ。
 こうした事情は、セイノーだけにとどまらない。本年度に入って12の組合が解散しており、前年度の総数と並んでいる。多くのケースで高齢者医療関連の負担金増加による財政悪化が理由とみられており、今後も解散が増えていく可能性は高い。
 中小企業のサラリーマンなどが加入している政管健保には、国から巨額の補助が出ている。それだけに健保を解散して移行する動きが広がれば、国民の負担がいっそう膨らみかねない。
 安易で不透明な財政調整が招いた、このジレンマをどうやって解消するか。根本に社会保障費の削減路線がある限り、打開は難しいだろう。保険料引き上げも、健保への負担押し付けも限界点に近い。給付と負担の関係や社会保障の財源をどう確保するかについて、あらためて国民的な議論を巻き起こす必要がある。